松子Bend And Stretch

甚だ遅ればせながらですが『嫌われ松子の一生』を観ました。先日rockくんと下妻物語イイよね〜って話をしてたら愛蔵版を貸していただきました。ホント最近オレの情報源はほとんどrockくんに頼りきってますな。お世話になっております。
自分でもビックリするくらい大泣きしました。最近色んなコトでホント泣き過ぎだ、オレ。完全に情緒不安定としか言いようがナイな、こりゃ。
全体として醸し出される雰囲気はムーランルージュやシカゴのような豪華絢爛エンターテイメントなノリと、五社英雄吉原炎上のような執念と情念にドップリ浸かったエモーショナルなノリですが、それに覆い被さるのは「やるせないほどの愛」です。あまりに映像のクオリティーが高く映画の世界観が完成されているが故に、見ている側の日常と僅かでもリンクするような現実感は皆無です。でも極めてそのファンタジー要素が強い作りだからこそこの全編通してビシビシに伝わって来る《愛》が強烈でした。
「愛したい・愛されたい」って思うのはニンゲンの本能だと思う。そのニンゲンとして極めて純粋な欲求に正直な松子のコトが愛おしくて堪らない。そしてその束の間手に入れた愛を失い続ける松子に涙せずにはいられない。ライトな感覚で見れる前半とは裏腹に、突き刺さるような痛みと共に観なければならない後半は「犯罪」「生活破綻」「精神科受診」と、今まさにオレが携わってる仕事と切り離せない事柄のオンパレードで、やるせなさ全開でしたヨ。「この映画は女性蔑視の映画だ」とレビュー書いてる人もネット上でわりとよく見かけますが、この映画の本質に性差はカンケーねーなって思うんですけどね。そーゆーちっこいコトに気を取られてちゃこの映画の一番イイ部分を味わえないよ。
最近ヨコハマメリー観た時にも思ったんだけど、人生ってのは他人から見て「幸せだ」「不幸だ」って決めれるモンじゃねーなってヒシヒシと痛感します。オレだってノンケから見たら「ゲイなんかに生まれて気の毒だなぁ」って思われるかもしんないけど、オレ自身は全然不幸だなんて思ってないし(今度生まれ変わってももう一回ゲイに生まれたいって思うくらい)。この松子の人生だって幸福か不幸かって言われたら、そんなん他人からじゃ分かんねーよ、としか言えない。ただ、不幸だって思う人は多分前述した「この映画は女性蔑視だ」みたいな感想を言うんだろうなとは思うケド。オレは「松子は不幸だった」とは思いませんでしたヨ。それはただ単純にオレがもし松子と同じ人生を歩んだとしても納得して死んで行けると思うから。同じようにメリーさんの人生も不幸だとは思いませんでした。オレがもしメリーさんと同じ人生を歩んだとしても納得して死んで行けると思うから。
ベンハーやグリーンマイルのような押し付けがましい愛をテーマにした映画を見せられるより、オレはその数百倍もこの映画から愛を感じました。結構オレの人生でベスト5に入るほどの「愛をテーマにした映画」。多分この映画の中での松子の愛がひとつも成就されていないまま彼女が殺されたラストに繋がっているからだと思います。無償の愛って双方の想いが成就した時点で、それ以降は絶対にある程度の見返りを求めるようになっちゃうから。その想いが成就しないまま殺されてしまった松子の愛はとてもピュアなものに見えてしまう。成就しなくても求めて求めて求め続けてしまう松子の姿は非常に愛おしい。その対象がたとえ愛人であれヤクザであれ内海光司であれ。眩しいほどの愛。オレは松子の人生を肯定します。ブルボンヌさんが以前この松子の映画評で書いてました。『オカマ達が置かれている状況はまさしく松子に似ています。 自由とは道なき荒野。 愛をいっぱいに抱えた子供大人みたいなのが、レールのない世界を、どこにその愛を運んでいけばいいのか分からないで心細く進んでいる。』 まさにそうだなぁ、と。映画に上乗せしてこのブルさんのセンテンスにもグッと来て涙腺ユルんだりして。
キャスト的にはもちろん鬼レズ中谷ネエサンも素晴らしいのですが黒沢あすかがダントツに良かったです。メイキングで中島哲也がキャサリンゼタジョーンズみたいな女優が欲しかったと言ってますが、ほんと黒沢あすかのキャサリンゼタジョーンズそのままな役作りはアッパレ。
全編通してテーマソングのように松子が歌い続ける「まげてのばして」がイイ曲過ぎて困ります。コード展開が絶妙。明日からオレも日々歌いそうな気がする。この曲のためだけにサントラ買ってもイイかなって思うほど。てか愛蔵版パッケージでかすぎ。